脱獄依頼があれば、対象の素性を問わず確実に檻から出し‥‥。
逃亡依頼があれば、追手を全滅させた後に対象を指定地へと送り届け‥‥。
暗殺依頼があれば、受けて一日以内に確実に息の根を止める‥‥。

そんな悪の道をひた走って20年弱の竹巳くんにも、牙と爪をしまって心を休ませる場があります。

我が家です。

倉庫と間違われそうなしょぼい一軒家ではありますが、帰るたびにこうして妻や子どもたちが暖かく出迎えてくれるのです。

そう――竹巳くんは既婚者です。
なんと奥さんは善人属性。まだまだ幼い子供が2人います。

ちなみにこのしょぼい家で快適に暮らせる人数は2人まで。
妻と子供2人を狭ッ苦しい家に押し込めて、竹巳くんは今日も暗殺、脱獄と仕事に励みます。

もちろん善人属性の奥さんには内緒です。

稼業が稼業なので普段は奥さんを連れ歩けない竹巳くんですが、ずっと家で子供の相手をしていてはろくに息抜きも出来ないでしょう。
少しの気晴らしになればと、妻をパーティに入れ連れ出すことにしました。

< こうして2人で話すのも久しぶりだね。気分はどうだい?

?!

??!

???!

やはりウサギ小屋以下の広さの家での生活は、相当なストレスだったようです。
氷で出来た刃のごとくえぐい言葉をガンガン投げてくる妻アグリッピナ。下手な魔法より痛いです。

確かに俺はもう三十路前だけどさ‥‥
それでも魅力は86(補正値)あるんだぜ‥‥?!

(゜д゜)‥‥ドウッテ イワレマシテモ。

コレはなんだったんだ?

嘘か?
嘘だったのか、あの温かい出迎えの言葉は?
子供たちの前だからっていい母親ぶってたとでも言うつもりか?

確かに家は狭かったかも知れない‥‥だが!
俺はこまめに家に帰り、金を入れ、子供たちの教育もきちんとしてきただろう!

お前にだって子供にだって、惜しみなく愛情を注いできたのに‥‥!!

オーケィ、わかった。

すまない、俺が悪かったよ。
狭い家に押し込められて、さぞ窮屈だっただろう。
そうだな、お詫びとしてたまには一緒に冒険に行こうか。

懐かしいな、お前とダンジョンに潜るのなんて何年ぶりだろう。

俺と一緒にいて、何を心配することがあるんだい?(爽やかな笑顔)

/\
ジュウゥ~~(肉が焦げる音)

つ、妻よーーーーーー!!!!(歓喜)

ああ‥‥今思い出しても、全身が震えて止まらないよ。
それくらい辛い事故だったのさ‥‥。

燃え盛る火炎のトラップに、彼女は不用意に足を進めてしまったんだ。
‥‥誰かに無理に手を引かれたのではないかって?
その場には妻と俺の二人だけだった。俺がそんなことするわけないだろう?
むしろ俺は必死に助けようとしたんだ。そのときに負った火傷がこれさ。

俺は自分の体力が続く限り彼女に手を伸ばしたけれど‥‥俺より体力がなかった彼女は、うめきながら燃え尽きてしまった。
俺がこの手で掴めたものといえば、焼けただれた肉片つきの白骨だ!
酷いもんだ、KFCのフライドチキンの方がまだ肉付きがいいときてる!
これが俺の妻だぞ、信じられるか?!

俺は泣きながら、彼女の遺体から形見の品をまさぐったさ。
まぁ、大したもんは持ってなかったけどな。

‥‥ん? 遺体は埋葬したのか、だって?

‥‥‥‥。

さっきも言っただろう、損傷が激しかったんだ。
とても地上まで持ち帰れる状態じゃあなかった。

でも決して死体遺棄などしていないぞ。

ダンジョンが彼女の墓場だったのさ。

はい、そんな訳で竹巳くん――配偶者死亡につき、現在独り身でございます。

地獄‥‥じゃない、天国の妻よ、心配しないでくれ。
残された子供たちは、この俺が立派な犯罪者‥‥じゃない、冒険者に育ててみせる‥‥!!

決意も新たに、竹巳くんご帰宅。

その冒険の討伐対象、お前の母親だったんだけどな?

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