Vault76より、スナリーギャスターについて|Fallout76

 私がキャンプを構えるホワイトスプリングの地には、まだ未開拓のロケーションがいくつもある。散歩がてら周囲を散策しようと思い立った私は、壊れた防具に最低限の武器と食糧だけを持ち、しとしとと降る雨の中を歩き出した。薄紫色をした朝の空の下、錆びた線路を見付けるまでにそう時間は掛からなかった。
 特に宛てがあるわけでもない私は、見つけた線路を辿ることにした。靴底に響く金属音を聞きながら歩いていると、古いアメリカ映画のワンシーンが脳裏に過る。死体を探しているわけではなく、仲間もいないが、線路の上を歩く自分が映画の少年たちに重なった。

 感傷に浸ったためか普段は聴かないラジオをつけてみようかとPip-boyに手を伸ばした私は、首筋にせり上がった悪寒に動きを止めた。薄闇の中で息を殺し、確かな気配を感じる前方へと目を凝らす。草を踏み、砂を蹴る不規則な足音に合わせて、私のすぐ目の前で白い影が揺らめいている。
 スナリーギャスターだ。成体が1体に、幼体が2体。
 私は死を覚悟した。このアパラチアでよくもまあ散歩などと暢気なことが抜かせたものだと、心の中で数刻前の自分をこれでもかと責め立てた。スナリーギャスターについて私が知っていることはまだ少ないが、これまで対峙してきた彼らは例外なく好戦的だった。何度か討伐経験はあるものの、いずれも建物や遮蔽物を利用した防戦に徹した末の辛勝で、まともにやりあって敵う相手ではないことは身に染みている。
 素早く周囲の状況を確認するが立てこもれるような建物はなく、遮蔽物は役目を果たせそうにもない細い木々くらいしか見当たらない。さらに絶望的なことに、彼らが私の存在を捕捉していることは間違いなかった。次の瞬間には鋭い牙が身体に突き立てられていてもなんらおかしくはないだろう。

 せめてもの抵抗にミートフックを構えた私を、親らしい成体のスナリーギャスターがじっと見つめてくる。幼体の内の一体はよたよたと覚束ない足取りで、私の方には目もくれず線路を横切って行ってしまった。そして成体ももう一体の幼体を促しながら、先に行った子供の後を追ったのだ。確かに私に気付いていながら襲い掛かってくることもなく、彼らは草むらの中へ姿を消した。

 緊張を困惑が上回り、私は足音を忍ばせて彼らの後を追うことにした。
 どの道、この先アパラチアで生きていく上で彼らとの対峙は避けられない。生態を正しく知ることは、自身の生存に繋がる――そんな大義名分は言い訳だ。私が彼らを追ったのは、単純な好奇心だった。

 彼らが消えた草むらはなだらかな坂へと続いており、上から覗き込むとホワイトスプリングリゾートの敷地と思われる舗装された道路が見えた。先ほど立ち去ったばかりのスナリーギャスターはちょうど道路に差し掛かったところだった。

 足を引きずるようにして歩く幼体が病に侵されていることに気付いたのはこの時だ。
 薄闇の中で私を睥睨する成体の両目を思い出した。彼の動向が病に侵された我が子を庇うものだとすれば、妙に辻褄が合う。もしも私が彼らに対して少しでも害意を見せていたなら、彼はきっとその牙を剥きだして襲い掛かってきただろう。幼い我が子を、守るために。

 声なき嗚咽が腹の底からせり上がり、私は無意識に口を押さえていた。
 彼らのことを恐ろしいクリーチャーとしか考えていなかった自分の浅はかさに気付いてしまい、脳天をぶん殴られたかのような衝撃を受けた。
 理由があれば、彼らは人間を襲わないのだ。きっと理由があって彼らが人間を襲うのと、同様に。
 アメリカの再建という大義を背負い、この荒廃した世界で生きる私たちとなにも変わらない。私たちにとっての恐ろしい敵は、同じ大地に生きる命でもあるのだと今さらながらに思い知った。

 次の瞬間、呆然と立ち尽くす私の耳を銃撃の音がつんざいた。
 ホワイトスプリングリゾートのセントリーボットが幼体のスナリーギャスターを撃ち抜き、激昂した成体の雄たけびが薄闇を引き裂くように轟いた。
 痛ましい悲愴を聞いて、いてもたってもいられなかった。私がミートフックを手に駆けつけた時には既に幼体の息はなく、成体は狂ったようにボットに襲い掛かっていた。

 自分がどうしたいのかわからないまま、私は成体の背中を殴るように切りつけた。彼は最期まで私に目もくれず、子供を殺した憎らしい機械に牙をむき続けた。自分の背中に増えていく深い切り傷など、まるで気付いてもいないかのようだった。
 こと切れる間際、彼は最期の力を振り絞って首をもたげ、病気の子供に目をやった。まだ轟く銃声の中で、彼の甲高い鳴き声を聞いた気がした。彼らから私に向けられていた恐ろしい咆哮とはまるで違う、確かな愛情が込められた優しい声だった。

***

 私はVault76のメンバーだ。アメリカの再建のため、アパラチアを調査する義務がある。
 調査過程でクリーチャーとの戦闘は避けられない。彼らを殺すことで、私たちは生き延びる。汚染されたこの大地にあるのは弱肉強食の摂理だけで、善悪はない。

 それでも私は覚えていようと思う。
 我々が敵と見なして築く屍の山にはかつて、私たちと変わらない命が宿っていたことを。


文章書くのって難しいですね。

この記事を書いたひと

Kou Toyophara
Kou Toyopharaとよはら こう
ゲーマーな両親の間に生まれ、ゲームハードに囲まれて育ったライトゲーマー。事前情報や攻略は見ずにぶっつけ本番でプレイするのが好き。最愛ハードはスーファミ。レトロゲーから最新ゲーまで、ジャンル問わず広く浅く嗜みます。

〔PS4〕オンラインID:toyophara
〔Switch〕フレンドコード:SW-6674-3245-3608

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